P-Edge

薬剤師のキャリアにエッジを立たせる

人生でそう何度もないからこそ、正しい知識が必要。薬局の事業承継の勉強会を開催

先日、珍しい勉強会を実施しました。こんにちは、P-Edgeの富澤です。今回は、薬局の事業承継をテーマにした勉強会に関する報告です。

薬局の事業承継において、昨今個人間のM&Aがちょっとしたトレンドになっています。大手チェーン薬局の買収意欲が落ち着きを見せる代わりに、個人が1店舗を譲り受けて独立開業するというパターンが目立ってきました。じほう社のファーマシーニュースブレイクでも、「1店舗当たりの年間売上が1.5~1.8億円ぐらいないと大手は買わなくなってきた」との報道がありました。
また、薬局の後継者不足も問題になっています。僕は仕事柄、多くの薬局経営者の方々とお会いする機会がありますが、「〇〇市薬剤師会の会員薬局の3分の1は後継者がいない」「うちの地区薬剤師会も似たような状況ですよ」という話を度々耳にします。事情は様々で、息子や娘が薬剤師ではない、社長を引き継いでくれそうな社員がいない、大手や中堅チェーン薬局に乗っ取られるのは嫌だなど。かといって、シャッターを閉めるわけにもいかないという苦しい状況下で、高齢のパパママ薬剤師夫婦で日々頑張っているというわけです。
一方で、「息子に継がせたいが、乗り気じゃない」とか「娘の夫(義理の息子)に承継したが、経営方針が合わない」など、承継してくれる人がいるからといって、必ずしもハッピーではないケースも聞きます。
さらに、創業社長が急逝して、製薬メーカーでMRをやっている息子が急きょ継ぐなんて話もあります。

 我々薬剤師は、生活習慣病の患者さんに将来合併症や心血管系イベントを発症しないよう、健康行動を取るように指導しています。すなわち未来のリスクに対して今から備えておきましょうという話を毎日何回も言っているわけですが、自社の未来への備えについては結構おろそかなのかもしれません。

持ち込み企画のセミナー

事業承継はセンシティブな問題なので、家族内であっても話題にしにくかったり、相談相手がいなかったり、情報収集の機会がなかったりします。また、今日明日のことではないので、問題解決をついつい先送りにしてしまいます。そして、大手の乗っ取りといったM&Aに対するイメージや誤解もあるでしょう。薬局に限らず事業承継の難しさは、技術的なことよりも感情的なことにあります。

とても大事なことなのに、こんな状況でいいのでしょうか。僕は薬局を経営しているわけではありませんが、いつしか強い問題意識を持つようになりました。薬局経営者の方々に入門レベルの知識と早めに準備を図る意識を持ってもらうことができれば・・・。書籍を読むには時間がかかる。セミナーは数多く開催しているけど、きっと足を運ばないだろう。何かよい方法はないだろうか?

思いつきました。「薬剤師会の会員向け研修会の一つに盛り込んでもらったらどうだろうか」と。都道府県または地区薬剤師会では、生涯教育として会員向けの研修会を数多く開催しています。薬剤師会が主催の研修会なら参加のハードルが下がるのではないかと考えたわけです。

早速、企画書を作成して、知り合いの役員の方に提案してみることにしました。

千葉県薬業会様とのコラボ

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ダメ元で企画書を知り合いの役員さんに送りました。熱意はありましたし、必要性もあると思っていましたが、企画に乗ってくれるかどうかは完全に未知数。薬剤師会は会員の専門職能を高めるための団体だから、薬局経営とかそういうテーマはNGかもしれないといった返答もあり、無反応の薬剤師会さんもあり、そんな中で、なんと千葉県薬剤師会さんが検討してくださると!ただし、薬剤師会ではなく、薬業会の方でとのことでした。失礼ながら薬業会という団体があったことを初めて知りました(千葉に6年もいて、千葉県薬さんとのお仕事もいろいろしていたのに)。

なにはともあれ、千葉県薬業会の事務局の方と何度かやり取りをして企画は前進。
千葉県薬業会様と千葉県医薬品小売商業組合様の合同勉強会が11月18日に開催されました。その第2部で、「保険薬局の承継の現状と課題」というテーマで80分ほどいただいて、講演を実施しました。

参加者の反応はいかに?

僕はセミナープログラムの企画者として座長を務め、講師には株式会社ユニヴさんからM&Aを担当している富田佳祐氏をお招きしました。冒頭の話題提供として、僕からこの講演を実施するに至った経緯や狙いを説明し、富田氏に60分間の講演をいただきました。そして、最後に質疑応答の計80分間。

ユニヴさんといえば、薬剤師の人材紹介会社としてご存知の方もいると思いますが、数年前から事業承継の支援をやられているそうで、中小薬局とのお付き合いが深いユニヴさんが今回の講師に適任と考え、お声がけしました。自社サービスの営業も兼ねるので、ノーギャラで(その節は、ご協力ありがとうございました)。ちなみに僕もノーギャラで(千葉県薬業会さんの名誉のために言っておきますが、ノーギャラで提案したのは僕の方です)。

50名を超える参加者がおられました。第一部目当てだったのか、事業承継への関心の高さなのか、いつも通りの参加者数なのかわかりませんが、まさかそんな人数の方々に聞いてもらえるとは思ってもいませんでした。気合が入ります。

 「調剤薬局の事業承継の現状と課題」というタイトルで、

  1. 調剤薬局の現状と今後
  2. 中小企業における事業承継の現状
  3. 事業承継の選択肢と課題
  4. 自社の企業評価について
  5. 保険薬局における事業承継事例とM&A事例

といった多岐にわたる、広く浅くポイントを抑えたお話をしてくださいました。

中小企業における事業承継の現状では、「60代の経営者の6割近くが事業承継の準備をしていない。80代においても約5割未準備。」「後継者の育成に必要な期間は、5年ないし5~10年との回答が5割。」「直近5年の事業承継先は親族内が35%、親族外が65%を占めている。」「子供に継ぐ意思がない、子供がいない、適当な後継者が見つからないとの後継者難を理由とする廃業が合計で3割。」などの具体的なリサーチ結果を引用した説明がありました。

事業承継の選択肢と課題では、親族内承継、親族外承継、第三者への承継(M&A)の3つの選択肢を示し、それぞれのメリット・デメリットを開設いただきました。

自社の企業評価についてでは、相続における資産評価の方法、M&Aにおけるコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチによる企業評価の方法といった話がありました。
薬剤師にとってはあまり聞きなれない単語が飛び交ったので、少々難易度の高い話だったかもしれません。

最後に、保険薬局における事業承継事例とM&A事例では、M&Aに対してあまりよくないイメージを抱いていた社長さんが、大手チェーン薬局との資本提携によって好転した事例を紹介いただきました。 

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基本的な知識を抑えるのには非常に良い内容でしたし、早めに準備しましょうというメッセージも伝わる内容だったと思います。会場の何人かの方が大きくうなずく場面もあって、その後の質疑応答では残念ながら質問こそ出ませんでしたが、前のめりに聞いてくださったのではないかと思います。ちょっとセンシティブな内容なだけに、質問もしにくかったかもしれませんね。

もっと知ってほしい

僕が事業承継をお手伝いできるわけではないので、受講者との利害関係はあまりなく割と中立的な立場で講演をご提供することができたかなと思っています。そして、こういう知識のインプットの場がもっと広がり、人生でそう何度もない事業承継というビッグイベントを正しく乗り切れる薬局経営者が増え、末永く地域医療に貢献してほしいと願います。

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